チェリー祭

Y県T市では、3年に1度の今年の4月某日『大チェリー祭』が開かれた。

『大チェリー祭』とは、
さくらんぼが名産のT市が万を辞して世に送り出した大イベントのことである。

全国津々浦々から訪れた婦女子で賑わった。

祭りには、日本中、いや世界中から集められたチェリーが立ち並び、
それを物色するお客で異様な熱気となる。

中にはつまみ食いをしてしまう婦女子も少なくない。

まだ、熟すには早いチェリーから、
熟しすぎた感が否めないチェリーまで
種類は多い。

また、今年は全世界からのチェリーをかき集めたと言うことも有り、
赤黒く丸々太っているものから、
殆ど日に当てられていないような青々としたものまで
品揃えは圧巻である。


『大チェリー祭』実行委員長の猪口トメ子(56)はこう語る。

「今年は、世界中のチェリーを集めましたの。
 そしてその中でも T市のチェリーが1番だってわかっていただけると信じていますもの。」

と、地元T市産のチェリーに相当の自信を持っている。

事実T市産のチェリーの人気は高い。
素朴な味、田舎的な味が、初恋を思い出させる、とか。

千葉から来られたというH子さん(28)にT市産のチェリーの魅力を尋ねた。
「今回で3回目なんです。
 1回目は大学1年生のときにノリで行っちゃって・・。
 今でも忘れられませんね。
あの味。
私も高校まではこっち(T市)にすんでたんですよ。

で、ホームシックって言うか新歓のノリについていけなくてて
思わず帰省したんですよね。
そのとき立ち寄ったのがここでした。

そのとき買ったチェリーの味が、、、

え?その日ですか?
買えるだけ買って帰りましたよ。

次の日から何かふっきれちゃって。
もう、合コンでも何でも来い!みたいに。

それでも、やっぱりここのチェリーは別格なんですよね。

今日ですか?
今日はもう、ずいぶんつまみ食いさせてもらいましたら、いりません。
これは、わたし様のチェリーです。
家に帰ってからじっくり食べようかと思って。

こっちは友達にお土産なんですよ。
宮城産なんで、まぁ素朴さはないけど、艶とかはいいでしょう?
友達結構ミーハーなんで。

え?これですか?はずかしいなぁ。
そんなに食いしん坊ってわけじゃないんですけどね。
アメリカンチェリー、好きなんですよ。
だって大きいじゃないですか?
食べ応え有りますもの。

ご飯の代わり?あはは。そんな感じです。」

乙女にとっても、T市にとっても、そしてチェリー達にとっても
このお祭りの持つ意味は重要である。